第3章 日本の自然の概要 第3章 日本の自然の概要
本章では、日本の自然環境及び人間活動、就中、生物を取り巻く環境としての各要素の概況を述べた。即ち、地形・地質から動植物の地理的分布までの自然環境についての概況と、人口密度、土地利用、水域の改変状況という自然に対する人為圧の状況について述べた。
3.1 生物を取り巻く環境
日本は、アジア大陸の東縁に位置し、日本海をへだて大陸とほぼ平行に連なる弧状列島から成っている。気候は地域的に多様であり、一年の季節の移り変わりは顕著であり、日本の植物相の多様性を高めている。
日本の動物、植物を取り巻く環境は、気候などに代表されるように変化に富んだものとなっている。この生物をとりまく環境は非生物的環境要因と生物的環境要因とに大きく分けられる。非生物的環境要因は、気候的要因(気温などの温度、降水量などの水分、日照などの光、風などの大気、など)、土壌的要因(粒度、腐植質の量などの土壌、表層の地質、など)、地形的要因(土地の傾斜度、傾斜方向、尾根と谷、山地と平野などの地形分類、など)に、生物的環境要因は、生物要因(同種個体、共生関係にある生物、競争や抗生作用によって影響を受ける生物、など)、人為的要因(森林伐採、耕作、土地の造成、など)に分けて取り扱うことができる。
これら各種の環境要因は、独立的ではなく、相互に関係しあって動物・植物に働きかけている場合が多い。例えば、地質は地形の成り立ちに深く関わっており、また地殻表層の土壌に大きな作用を及ぼしている。土壌は、母材、気候、植生、地形、地下水などの多くの土壌生成因子の総合的な作用によって長い時間をかけて生成され、絶えず変化し続ける。また、土壌は、土壌生物の生存基盤として多様な生物相を維持するとともに、各種の生物の影響により土壌も変化するという相互作用を繰り返している。
このように生物と環境との相互作用の歴史的産物として、大地の生産物である生物の現在のすがたが存在する。
ここでは、このような環境要因と生物とのかかわり、また、様々な人間活動とのかかわりについて以下に検討を加えた。
3.2 地形・地質
地形の原形は地殻変動や火山活動によってつくられる。地殻の表面は流水、氷河、風など、太陽活動をエネルギー源とする外作用によって破壊、侵食され、けずりとられた岩屑は低所に堆積し、その結果地表は変動地形、火山地形に加え侵食地形と堆積地形の入り混じった複雑な様相を呈するようになる。この地形形成のプロセスはそれぞれが同時にあるいは単独で限りなく進行する。
地殻変動も火山活動も地球上の場所によってそれぞれ特有の性質をもっている。また、地形形成は気候と密接な関係がある。したがって、地形は地球上に占める地理的位置によって特有な性質をもつようになる。世界的にみた日本の地形の特色の一つは変動地形と火山地形にあるといえる。
●配列の規則性
日本には、山地・山脈がひしめいている。その山地の配列を決定している要素として、日本列島という弧状列島(島弧)の大地形の成立にあずかった長大な構造境界である、海溝と火山フロントがある。これらの構造はプレートテクトニクスによれば、図3.2.1のようなものと考えられている。海溝やトラフ(舟状海盆)は、海洋プレート(図の太平洋プレートとフィリピン海プレート)が沈み込む地帯にできた凹地とみられ、火山のフロントは、沈み込んだプレートの上面付近で発生するマグマが地表にあらわれてできる火山帯のへりと考えられる。火山フロントは島弧の中軸部をなす。海溝と火山フロントは島弧にとってこのように重要な構造境界だと考えれば、日本の山地がそれらとほぼ調和的に配列しているのがうなずける。
東北地方から北海道の渡島半島にかけてが東日本弧であるが、そこでの山脈・山地の配列は、ほぼ日本海溝に並行している。渡島半島をのぞく北海道の山地の配列は、サハリンから日高山脈にのびる高まりと千島弧の火山列が示す高まりの重なりと考えられる。
本州の中央部は山地の配列がもっとも複雑なところである。またここは山地の高度がもっとも大きいところでもある。そのような複雑さと高さは、ここが三つの島弧、すなわち、東北日本弧・西南日本弧・伊豆小笠原弧が会合しているところであるためと考えられている。
●山地
日本列島は山地がなければ存在しない。日本列島は太平洋北西端にそびえる一大山脈で、陸上の国土にしめる山地面積は、61%と大きい。丘陵などをふくめた平野面積は残りの39%である。その平野は、日本の場合すべて山地形成の副産物としてできたものといってよい(図3.2.2)。つまり、山がまず高まり、それが侵食されて生じた土砂を川が搬出し、海岸や盆地を埋め立てたのが日本の平野である。山は人口の約9割が住む平野の"生みの親"である。
山はまた、気流を上昇させて水蒸気を降水に変える。その水が山の植物を養い、川となって山をけずり、下流の平野に土砂を運び、人びとに水や水力エネルギーを供給する。そのため、山は古くから"俗でない所"であった。山国日本ではいたるところの山に"山の神"が鎮座し、信仰の対象というほどでなくても、貴いものであり、川とともにふるさとの象徴であった。また山は風景美の骨格をつくるものである。日本の国立公園・国定公園・都道府県立自然公園の大部分が山地にある。
日本の山地は、古生代から第四紀にいたるいろいろな時代に形成された各種の岩石から成りたっている。山地による岩石の違いが大きいことは、日本の地質構造が複雑なことによる(図3.2.3)。一つの山地・山脈のなかでさえも、複雑な地層・岩石の構成がみられることが少なくない。
主として平野をつくる材料となっている第四紀の堆積岩および火山や火山麓をつくる第四紀火山岩(合計面積率38%)をのぞいた残りがだいたい日本の山地と丘陵をつくっている岩石、ということになる。そこでは堆積岩(計39%)につづいて第3紀以前の火山岩(17%)と深成岩(12%)が広い面積をしめ、変成岩が残りをしめる。(表3.2.1)
平野をつくる第四紀層と、火山をつくる第四紀火山岩や薄い(およそ1km以下の)新第三紀層を除くと、糸魚川静岡線を境として、東北日本と西南日本の差がいちじるしい。西南日本はおもに古第三紀より古い基盤岩でできているのに対して、東北日本は、北上・阿武隈山地以西では所どころに基盤岩がのぞいているものの、多くは新第三紀層より新しい厚い被覆層よりなっていて、ちがいが大きい。新第三紀層(2400万〜200万年前)とそれ以前の岩石(3億〜5千万年前)はおおざっぱにいって形成年代が1桁ちがう。古い基盤岩は新しい被覆層にくらべて構造がずっと複雑である。なお、現在みられる山地の地形ができた時代は主として200万年前より新しく、ことに100万年前以後のものが多い。
氷期の日本では、周氷河作用、なかでも岩石の凍結破砕やソリフラクション(斜面を土石がずり下る現象)が広域におこり、北海道においては、流水の侵食作用を上まわるほどであった。北海道、とくにその北部・東部でみられるのびやかな風景の基本をなすのは、第四紀にくりかえされた氷期の周氷河作用によってできたなだらかな地形である。
北海道の北部・東部をのぞく日本全体、ことに本州・四国・九州の1000〜1500m以下の山地にあっては、氷期・間氷期をとわず、降水・流水の作用がもっとも強力な侵食作用の荷い手であった。
流水は日本のように森林のあるところでは斜面一面にひろがることなく、水みち・川すじを流れ、侵食する場合には線状に谷を掘る。谷と谷のあいだが山稜になる。個々の山稜や峰は、谷が刻まれることで山らしくなり、大きい谷底と大きい稜線のあいだの大きい斜面は、小さい谷に刻まれ、その結果、小さい稜線と小さい斜面の集合となる。さらに小谷の侵食は、山崩れという形式をとることが多いが、それによって、大きい稜線も低下し、谷底と稜線の高度差は小さくなり、斜面の平均傾斜もゆるくなっていく。
●平野
日本の平野は、流水が山を削った削り屑である土砂の堆積によってできているのがほとんどである。関東平野の台地のように、海底が干上ってできたものもあるが、その海底を作った土砂も、ほとんど周辺の山地から川が海に運び込んだものである。したがって、日本の平野はほとんどすべて山地の付属物で、いま見える山が成長したことが原因で形成されたものであるといえる。
日本の平野が山地に由来する若い堆積物よりなるという特質を生じたのは、活動的な弧状列島であることのほかに、山を削り、土砂を運搬する河川を育む降水が多いことに負うところが大きい。
日本の平野の多くは海岸ぞいにあり、それらは形成過程において海の波や流れの作用を受けるとともに、海面変動の支配を受けた。たとえば、最終氷期の海面低下と後氷期の海面上昇(縄文海進)は沿岸の沖積平野形成を導いた第一の要因であった。日本の平野のほとんどは、海に接近してはいるが、直接海に面しているというよりは、山に抱かれた形のところに多い。日本最大の関東平野は房総半島という"防波堤"の内側にあるし、濃尾平野や大阪平野は伊勢湾と大阪湾という奥深い湾に面する、なかば内陸の平野である。新潟平野でも、その海側に弥彦山塊が平野を海からへだてでいる。もし弥彦山塊がなかったなら、日本海の荒波は信濃川などの土砂を流し去り、新潟平野は今のように拡大することは、できなかったにちがい� ��い。海岸に接近する主要な平野の多くは、いわば海岸近くの盆地を土砂が埋め立てたところである。
3.3 気候
地球全体の気候は、対流圏の大気大循環の構造と関連している。また大気大循環の構造はさまざまな要因の影響を受けており、決して単純ではない。これに応じて、地表面にさまざまな気候が出現する。日本列島が中緯度帯に存在して南北に長く延び、地球上最大の大陸と最大の海洋の境界に位置していること、日本列島が中国の海岸線にほぼ平行して走っており、中央部に脊梁山脈の存在することが、日本の気候を変化に富んだものにしている。日本海の存在は、日本列島の気候を大陸アジアの気候と区別する要因として重要である。
●中緯度にある意味
札幌と鹿児島の緯度差はマニラとジャカルタの緯度差より小さく、バンコクとシンガポールの緯度差にほぼ等しいが、気候の差に関しては、札幌と鹿児島の差の方がこれらの都市の間の差に比べて圧倒的に大きい。これは、南北の気温差の大きな中緯度帯に日本列島が存在するからである。南北の気温差の程度はジェット気流の強さと物理的に結びついている。中緯度の中でも、日本付近は特にジェット気流の強い場所で世界的にみて、南北の温度差が特に大きい。またジェット気流が強いことは、温帯低気圧の発生頻度が大きいことを意味する。中緯度の国としては異常に雨量が多いのは、前線性の降水量の大きいことが一因である。その中でも梅雨は特異な現象であって、日本を含む東アジア以外の国ではこのような現象は存在し� ��い。
日本列島の配置は、風向にほぼ直角である。北から南まで、非常に広い範囲にわたって寒風にさらされる。しかも、寒風の厚さは脊梁山脈の高度とほぼ同じだから、山の風上側と風下側で違った気候が形成される。
大陸の東側に存在することは、夏の気候の形成に決定的役割をはたしている。大陸は亜熱帯高圧帯を経度方向に切断して、海洋上に閉じた高気圧をつくるが、高気圧が閉じることによって、大陸の東側に低緯度から高緯度に向かう風が吹くことになり、低緯度から暖かくて湿った空気が供給される。これは、梅雨の降水量と関係があると考えられ、また、この風は台風を日本へ運んでくる働きもする。
温帯低気圧による降水に加えて、北西季節風にともなう豪雪、梅雨、台風によってもたらされる降水は、日本を水質源の豊かな国にしている。日本列島の大部分がかつて森林でおおわれていたのは、このような気候学的に特異な条件がなりたっているためと考えられる。
夏、小笠原高気圧からの熱帯気団が全国をおおう日には、九州も北海道も、最高気温は30℃から33℃くらいになる。ところが寒帯気団でおおわれた地域の気温は緯度とともに変化する。気温に水平勾配があることは、寒帯気団の一つの特徴で、日本がシベリアから送り出される寒帯気団にすっぽりと包まれる日には、日中、北海道では、−10℃でも、鹿児島や沖縄では15℃以上にもなる。最低気温ならば、その差は35℃をこえる。
寒帯前線帯は、冬には沖縄の南まで南下するが、季節とともに北上して、夏には北海道中央部あたりにある。したがって、沖縄にも寒帯気団におおわれて冬とよべる季節が訪れるし、北海道にも、北部を除けば、熱帯気団におおわれる夏がある。
年平均気温は、低地ではオホーツク海沿岸がいちばん低温で約5℃、沖縄と小笠原では約22℃、南鳥島は25.1℃である。
同じ緯度で北アメリカ大陸東岸と比較すると、日本よりいくぶん高温であるが、南北の気温勾配はほぼ同じ程度である。大陸西岸では、熱帯気団と寒帯気団が鋭く対立することが少ないので、南北の気温差ははるかに小さい。